Geogami’s blog

日々の身の回りの出来事を中心に、 キャリア教育・地理教育 アクティブラーニングなどの教育方法 ICT等の話題を綴っています。

海外のキャリア教育・企業との協力

昨日に引き続きキャリア教育について綴ってみる。
 
 海外での取り組み
 日本も若者の就職問題が深刻化しているがさらに欧米の現状は深刻だ。少し古い統計だが、25歳未満の失業率でみると、日本は2007年7.7%だったのが2010年には9.2%に増えている。同じ数字でアメリカ場合は10.5→18.4%、イギリスの場合は14.4→19.1%、イタリアの場合は20.3→27.8%(ILO調べ)となっている。アジアでも事態は深刻で中国では就職できない大学生がアジア各国の企業に就職口を求めて大移動している、ホンコンでも当局挙げてキャリア教育に取り組んでいる。若者の就職問題は今後、グローバル化の進展を考えたとき日本だけが改善していくとは思えない。経済環境が日本より10年前から深刻化している欧米においては若者のキャリア教育もより具体的現実的な取り組みとなっている。
 高等学校段階での職業教育・訓練の流れが弱まってきている日本とは逆に、中等教育段階で職業教育・訓練を充実させているフランスやドイツの流れにも着目したい。日本のように座学の授業で真理・法則を学んで技能を学ぶ方向とは逆に、技能を学んでから法則・真理を学ぶという考え方で、どちらが優れているかという論議でなく両方からのアプローチを組み合わせる必要があるのではないだろうか。
 
1.  英国のキャリア教育とエンタープライズ教育
  この春英国を訪れ見聞したことを記しておく。
 イギリスはニート(Not in Education, Employment or Training, NEET)という言葉を生み出したキャリア教育の先進国。

 2011年のイギリスの若者(16~24歳)失業率は 21%. 97万人にも及ぶ。
 以前、シェイクスピアの生家で知られるストラトフォードアポンエイボンを訪れた、その日は高校生の起業家教育エンタープライズエデュケーション)の実践の日。中心部で結構盛大に一年間の授業の成果として高校生が考えた商品やサービスのさまざまな出店が出されて、生徒が自分たちでセールスしていた。

 英国の高校生に直接、「こういう授業ってどう思う?」と感想を聞いたところ 「自分たちのキャリア形成に役立つ」と言っていた。半年から1年程度で結構完成度の高いものを創り出し販売していた。
  イギリスで本格的に若者支援に取り組んでいる 「コネクションズ」(コネクションズサービスConnexions Service、コネクションズ事業、イギリスにおいて2001年に開始された13-19歳の若者を対象とする包括的支援制度のこと。)のオックスフォード事業所にも取材した。突然の訪問にもかかわらず、所長さん(女性でした)に対応していただいた。
 オックスフォードのコネクションズは 市内の8校の高校と3校の専門学校を16人のスタッフでカバーしている。日本では就職支援やキャリア形成の点が注目されているが ドラッグの乱用・シングルマザー・大学卒業後のギャップイャーまで面倒見ているという。 しかし、英国も財政危機でコネクションズの予算も今年は3割削減、現状はとても厳しい。
 オックスフォード大学の入学相談室とキャリアセンターも訪ねてみた。オックスフォード大学のような超有名大学でも学生のキャリア支援を結構しっかり行っているのは驚きで卒業後の平均年収の統計もずばり大学のアピール点としてパンフレットに示されていた。イギリスでは人気が低いとされている教職だが、卒業生が意外に多く教職に就いていた。 受付で日本の高校教師だと言ったら非常に熱心に対応していただけた、卒業生のネットワークを活用して個人個人の支援を行っている。
 就職に悩む人も多いのか街の本屋にはキャリアに関する本が結構並んでいた。
 
2. 米国のキャリア教育
 ジュニアアチーブメントの経済教育や地域活動について記しておく。
 米国では2月に「ジョブシャドーデー」という日が定められて、学生が職業を知る機会が与えられている。それを推進している組織の一つにJA=ジュニアアチーブメントがある。
 日本でもいくつかの実践や教員の研修を意欲的に進めている。公益社団法人ジュニア・アチーブメント日本、CEE-Japanによる昨年2月のセミナーではノーザンミシガン大学・フェラリーニ教授による「教員向け経済教育ワークショップ」が日本ではじめて開催され、「答えが正しいか否かに関わりなく、答えに至った考え方を引き出し、それを全員が共有することによって全体の知的レベルを上げていく。」「発言する抵抗感をなくして、意見を述べる勇気や考えることの楽しさを認識させてくれる。」といった内容の経済教育のセミナーが開催された。意志決定のプロセスを経済理論で分析し生徒の意志決定能力を向上させる手法は今後日本でも注目されると思われる。アメリカのキャリア教育の事例を見ていて感心するのはキャリア教育の成果を「結局、地域がどうなったか」で考えている点が興味深い。
              
  企業や上級学校など外部との提携について。
 高大接続では「大学の持つ知の技法を高校へ、高校は実践知を大学へ」とお互いの歩み寄りが必要である。具体的には大学からは、専門性や大学における学びの手法で学びの継続性を作る。高校からは基礎学力定着や就職指導のノウハウを伝え、多様性を切り開く手助けが求められていくだろう。 
 企業には、大学生の行っているPBL等の手法を使った体験を高校生にもお願いしたい。
 
※PBL: P r o b l e m  B a s e d  L e a r n i n gは問題解決をゴールとする共同学習方法、 P r o j e c t  B a s e d  L e a r n i n gは問題解決の先にある目的やビジョンの実現を目指す共同学習方法で、学校や医療分野などのプロフェショナル教育に拡がっている教育方法であり、2 1 世紀型の学習手法と言われている。
 
※ 企業との連携について(インターンシップの受け入れ依頼は迷惑か?)
 
 私の勤務校でも、毎年、多忙中にもかかわらず、数多くの事業所に受け入れてもらっているわけだが、協力していただいている高校として生徒の体験の受け入れは「迷惑」なのでは?という懸念もある。
 インターンシップの導入は企業にとって迷惑ではないかという声も聞かれる。そこで、経営コンサルタントの方にご意見を伺ったことがある。

 一般的にインターンシップについて企業は「社会貢献」としてとらえている場合が多いという。
 この活動は1.「前提環境としての持続可能性の強化」2.「将来の事業育成」3.「社員への価値提供」の三点で重要だという。
 
1.に関しては、今日の企業価値の6割はその会社の将来性で判断されている、今の会社の実力と将来の会社の持続性の強化という点で考えたとき、自然環境や社会環境への貢献は当然。その会社を取り巻く環境を含んで投資家等は評価している。
 2.の点では慈善から営利、個人から企業へと社会貢献活動がシフトし、この経験から積み重ね たノウハウは財産として将来の事業内容へと繋がる可能性が高くなってきている(慈善活動と営利活動の境界が無くなってきている)。たとえばノーベル賞に輝いたバングラディシュのマイクロファイナンスがよい例で最初は慈善活動であったが近年は立派なビジネスになっている。
 3.として、最近の若い優秀な社員は社会貢献への感度が高く、社会貢献度が高いと優秀な社員が残ってくれるという事実がある。
 インターンシップの受け入れは慈善事業をしているという訳ではもはや無く、「企業イメージの向上や経済合理性にあうようになってきている」とのことだった。

 とはいえ、多くの学校ではインターンシップは卒業生と地域の方々の協力と支援で「お世話になっている」というのが現実である。
 これからは地域の原資を有効活用できるようなアクティビティーの導入を企業と学校側の両者で模索していくことが必要になるだろう。
  古い産業構造の視点から「高校生のインターンシップなど企業には迷惑なだけだ」と言い切る方もいるが変化を読み取り柔軟な視点から見ると決してそうばかりでは無いようだ。
 
最後に   
   キャリア教育について現状を綴ってきた、全国的には導入の初期段階が完了し、地域や学校の実態に合わせた、次なる新しい取り組みに進化している。
 世の中が大きく変化し、進路環境が激変している今日学校や地域の資源を生かし、生徒と学校の将来のあり方を見据えた実践の開発が必要になるだろう。
 キャリア教育を導入している高校には、体験と教養講座を連動させ基礎学力の向上を図っている例も散見される。

 実社会や大学の学びに触れることは上級学校進学後の見通しを持ったり、今学んでいることに対する学習の動機付けに結びつく。生徒児童にとって視点を変えて日々の生活を見つめることも必要ではないだろうか。こういった方向からの工夫・仕掛けがこれからの学校には不可欠になるだろう。