Geogami’s blog

日々の身の回りの出来事を中心に、 キャリア教育・地理教育 アクティブラーニングなどの教育方法 ICT等の話題を綴っています。

「キャリア教育って何」高校の先生にできるの?どんな足取りだったの?

Ⅰ.「キャリア教育」って何?
 
従来「進路指導」というといわゆる「出口指導」で、
どこの大学に何人送るか、
どの企業に何人就職させるか
という指導が一般的で
高校側はその数を競ったり
生徒保護者も有名校・優良企業に進学・就職すれば
一生安定したパイプラインに乗ってすすめたので
それが大切だった
ところが
世界と社会の変化の中で
安定したパイプラインは消滅し
かつての名残を惜しむ?
価値観も年々薄れてきている。
流されるままに、「どこに向かっているか」を考えなくて良い時代から
「その大学に行って何を学びたいのか」
「その職業について何をしたいのか」
「世の中は何を必要としているのか」
「どこでどう生きるか」という問いに対する答えを
自問自答しながら進む時代になった。
高齢化
価値観の多様化
情報化
・・・・
など個人を取り巻く社会環境が大きく変化し
従来の「進路指導」だけでは
人生の役割や幸せ
そこに関わる
社会や地域について
学んだり・考えたり・行動することが難しくなってきた
そんな視点から生まれたのが「キャリア教育」だ
しかし、誤解も多い
 
「キャリア教育」の話に進む前に「進路指導」についても一言触れておきたい。
本来「進路指導」とは1960年の改訂高等学校学習指導要領以降,に示されているように
①生徒理解,
②進路情報の提供,
 ③啓発的経験,
 ④進路相談,
 ⑤進路選択・決定,
⑥補導(追指導) の6 領域からなるものであった。
 
その後、前述したような時代の変化と共に、
好ましい職業観・勤労観の育生・生涯教育の概念・
ガイダンスキャリアカウンセリングの概念・
ソーシャルスキルや市民教育が「キャリア教育」に結びついてきている。
世間では「キャリア教育」というと
象徴的な言葉や活動に視点が集中しがちで、
自分探しや勤労観の育生・インターンシップばかりが取り上げられるが
「キャリア教育」は
「キャリア発達」を支援する教育的働きかけであり、発達的観点から系統的・継続的・個別的な対応を積み重ねていくものである。
児童生徒の「発達段階」に応じてプログラムしていく必要がる。
 
良く「先生にキャリア教育なんてできるのか?」と言っている論調を目にするが、
単純に周りを見回して
日々、児童生徒に接し、その後の成長の様子を何百人何千人単位で知っている職業って他にあるだろうか?
就職進学だけでなく、その後の生活の様子なども見聞きすることはこの職業の特性でもある。
キャリアは就職だけの話でもない。
次のステップにどのような学びを選択したらよいのか
学びの場は凄い勢いで広がっている
特に地元地域における活動や学習の機会に関しては
「学校」のもっいる情報と連携は多様だ。
また、社会に出る前にガイダンスをする機会に恵まれているのも教員である。
ハローワークの相談員も一日に相談できる件数は限られているが
総合的な学習やLHR・諸行事等を通じて
計画的・継続的にガイダンスや相談を続けていけるのも「学校」だけではないだろうか。
定期的な面談などを通してその児童生徒のこと、さらに家庭のこともよく知っているのも教員である。
 
有名優良企業への就職アドバイスはできないかもしれないが
生徒児童の発達段階に応じた将来への準備アドバイスができる
最も重要な存在が「教員」何ではないだろうか?
 
こんなことから
キャリア教育に関わってきた
さらに考えたことは 
「これが学校教育の中核を担っている授業と無縁であるはずがない。」
ということで、授業との関連もずっと探っている。
 
「進路指導を熱心にしてきた・している」という学校や先生に出会うことがある
しかしそれが
従来の「受験指導」で
そこには残念ながら「発達」という概念がなかったりする。
 
少し堅い話だが、法令あたりからの話題を綴っていきたい。
Ⅱ.「キャリア教育」の視点                                 
平成11年の接続答申から登場した「キャリア教育」は、新学習指導要領にはっきりと明示された。
(1)取り組みの拡大と新指導要領
①法令の改正・・平成18 年12 月、およそ60 年ぶりに教育基本法が改正
教育基本法第2条第2号】
個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うと
ともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずるような態度を養うこと。
 
教育基本法第13条】
学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚す
るとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする。
 13条は新しく設けられた条文である。
②学校教育法の改正(翌年平成19年改正された)これは頻繁に改正されてきたが、義務教育改正は初であり小学校においてキャリア教育を推進する根拠となっている。
 
【学校教育法第21条】(義務教育の目標10号)「職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。」が規定された。これは以前は37条2号だったが、平成19年度より義務教育の目標に付け加えられた
 
③学習指導要領改訂までの経緯
 平成20年1月17日の中央教育審議会答申にて、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」において、新しい学習指導要領でのキャリア教育の充実が求められた。幼少中に比べて高校の指導要領実施が遅れるのは専門高校等の教科や科目が多く、それらに関する作業が時間がかかるからである。
 
④教育振興基本計画(平成20年7月1日閣議決定
 今後5年間(平成20 ~ 24 年度)に総合的かつ計画的に取り組むべき施策として、小学校段階からのキャリア計画を推進する。特に、中学校を中心とした職場体験活動や普通科高等学校におけるキャリア教育を推進することが挙げられている。これは閣議決定されている。
 
⑤新学習指導要領 総則
 中学校2(4)では「生徒が自らの生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう、学校の教育活動全体を通じ、計画的、組織的な進路指導を行うこと」とし、教育振興基本計画において“キャリア教育を推進する”と示され国の大きな方針決定となった。
 これを受けて、高等学校5(4)では「生徒が自己の在り方生き方を考え、主体的に進路を選択することができるよう、学校の教育活動全体を通じ、計画的、組織的な進路指導を行い、キャリア教育を推進すること」と明示された。
 
⑥ルール制定の中で浮かんできた普通科の課題
 高等学校全生徒数に占める普通科の生徒数の割合は高い。学科ごとに見ると普通科(70%超)、専門学科(約25%)、総合学科(約5%)である。普通科においては将来の生き方・働き方について考え、選択・決定することを先送りする傾向が強い、高等教育機関への通過点、進路意識や目的意識が希薄なままとりあえず進学・就職する者も依然として多く、就職内定状況は、他の学科に比べて厳しい。普通科において職業に従事するために必要な知識・技能をどのように育成するかが課題である。学科や卒業後の進路を問わず、現実的に社会・職業の理解を深めること、将来どのように社会に参画するかを考えること、教育活動などを行う時間を確保するため、指導計画に位置づけ、着実に実施することが掲げられている。
 こうして新学習指導要領に「キャリア教育」は明示された。今後は、「学び続けてきたもの」がアイデンティティーとなり生涯学習の重要性はますます高まるだろう。キャリア教育は一過性のイベントではなく一部教師が行うものでもなく、地域と学校全体で取り組むものになってきている
 
Ⅲ.「キャリア教育に関わる用語」について
   
(1)「キャリア」とは?
 2004年の文科省、キャリア教育推進協力者会議によると「個々人が生涯にわたって遂行する様々な立場や役割の連鎖及びその過程における自己と働くことの関係付けや価値付けの累積」としている。日本の進路指導を導いてきた仙﨑武は「人生を組み立てていく一連の出来事」としている。
 
(2)「キャリア教育」とは?
 個人に対するウェイトが高く、卒業までの3年間限定の指導が中心であった従来の進路指導に対しキャリア教育は一生涯を見渡し、学校全体で組織的に取り組む系統的立った指導と考える。受験指導は作業に近く発達を促すガイダンスとは言えない。
 1908年パーソンズアメリカボストンで青少年に職業選択の支援を始めて以来、科学的な検証が重ねられてきた。どこに行くかではなく何をするか。立派な履歴書を書くためでなく生き方。充実した人生を送り社会にも貢献出来る人材の育成を目指すのがキャリア教育の視点だ。早稲田大学の三村隆男は自己理解の上に情報を提供し具体的で多様な選択の道筋を示すのがガイダンスであるとしている。
 「できることは何か、したいことは何か、すべきことは何か」を徹底的に考えさせるのがキャリア教育である。高校はとりあえず進学させるだけの「先送り」指導でよいのだろうか、キャリアプランニングは全ての生徒に必要ではないだろうか。散歩で富士山に登った者はいない。一方で社会環境が激しく変化する中、学校は企業が求める人材を輩出できていないという指摘も受けている。
 OECDの学力調査が話題になっているが、日本の学生において学ぶ意義や学んでいることの有用性に対する意識が低いことがしばしば指摘されている。水のおいしさは見たり聞いたりするだけでなく飲んでみなければ分からない。水の冷たさはさわってみないと分からない。生徒は教科を学ぶ意義や社会との繋がりに目覚めることで成長する。体験や交流など地域社会で社会性を育てる環境が減ってきている中、キャリア教育に対する期待は高まっている。一方で学校には生徒の自立も求められていおり、社会人になる前の若者を預かる学校が生きていく力を教える要請を受けているのだ。
 
(3)UNESCOの21世紀教育国際委員会報告書「学習:秘められた宝・ドロール報告書」(1996年・天城 勲 訳)によると、「学習」には、知ることを学ぶ(learning to know)・為すことを学ぶ(learning to do)・共に生きることを学ぶ(learning to live together)・人間として生きることを学ぶ(learning to be)の「四つの宝」があると記されている。人類は「生涯学習」により環境・高齢化・高度情報化の問題解決をして行かなくてはならない。
 
(4)ジョンデューイは「学校と社会」の中で「経験から学ぶ」実体験の大切さと、全てを教えるのではなく、学ぶきっかけ・意義と方向性を与える「種智」の大切さを伝えている。
 
(5)勤労観・職業観を育む必要性
 人を感動させ、人を動かすのは人である。勤労に対する価値観は、体験を通して人から気づき、人から学ぶ事が多い。
 これは、「生き方」の根底にある価値観に通じる。そこから生きる実感を感じ、自己有用感を得る。高校生の段階で職業選択の基準を考え始める必要があるが、社会体験が乏しい状況を考えると周囲からのアドバイスが必要になる。生徒には本物を味わせたい。子供たちには良い大人と出会い学ぶ機会を与えたい。
 どのような仕事においても、信頼なしには仕事は進められない、そして高度知識社会では、学び続けなければいけない、共存社会に生きるものとして基本的に貴賤のない職業観を理解できなければならない、この3つのルールは学校生活と社会を繋ぐ原理となる。
  今後、雇用形態の多様化で「どこに勤めているか」がアイデンティティーではなくなったとき、「学び続けてきたもの」がアイデンティティーとなるだろう。仕事と学習が相互に乗り入れる必要が出てくる。今後は、希望する学校や企業に直結できない状況はますます増えてくると予測される、仕事と学習の往来はいっそう柔軟になっていく必要がある。
(6)普通高校でキャリア教育が必要な理由    
 普通高校においては卒業生からのアンケートで高等学校段階での進路指導の評価が極端に低くなっているという事実がある。「中学校・高等学校における進路指導に関する総合実態調査」(平成16)等
 生涯にわたって学び続ける世の中になり、安定が約束されたコースは無くなった。有名大学を卒業すれば有名企業に就職でき安定した生活が送れるというパイプラインはなくなった(ハーバード大学のダニエル・ヤンミン、チャン・マイミン)。こうなってくると出口指導だけではダメだ、多様な価値観を持つ生徒が入学してくる背景から、普通高校では学ぶ意欲を喚起する必要から学習&進路ガイダンスが必要になってきた。結果、体験や外との繋がりが不可欠になり学校内だけでは教育が成り立たなくなった。
 
(7)進学校にこそキャリア教育が必要な理由
 地域を担う次の世代を育てる人材を輩出する学校だからこそ、職業や生き方について考えさせる必要がある。自分だけが成功すればよいという考えでなく、人と人が繋がり社会を形成しているという根本を理解できる人材を送り出す義務がある。
 高い能力を持った者は、良いアドバイスや体験を受け、さらに高めるべき。進路に関してガイダンス・体験・キャリアカウンセリングが必要だ。学ぶ意義を知り学校で取り組んでいる様々な活動の意義を理解し、自立に向けた学力の向上や基礎的汎用的能力を身につけさせたい。ガイダンスとカウンセリングが無い学校は学校と言えない。
 教職員も、幅広く指導方法を身につけるべき時代になってきている。幅が広がると生徒を見る目も変わる。この時代、世界中の若者が悩んでいる。卒業していく生徒はグローバルな戦いに好むと好まざるとにかかわらず参加して行かなくてはならない。就職・受験指導[出口指導]だけでは世界では通用しないし教育者として貢献できない。
 
Ⅳ.「キャリア教育の評価」について
(1) キャリア教育の評価についての考え方。
 文部科学省の考え方は、PDCAサイクルで考えるのが基本形である。キャリア教育の実践に関する評価は、単独で存在するものではない。計画に基づく実践を通して児童生徒にみられた変化を検証し、それを教育活動の改善につなげるために評価が必要となる。
  キャリア教育の実践を評価するため方法は進路指導における生徒理解の方法と同じであり何か特別な方法があるわけではない。重要な点は取組の目的・目標に対応した「ものさし」を用意することである。何を評価するのかの視点で中心に据えるものは生徒の成長・変容であり、体験を通じてどれだけアウトプットできるようになったかを評価し、何ができるようになったかというアウトカム部分の評価によって進められるべきである。
 全国一律の基準に合わせる必要は無く、地域や学校および児童生徒の実態や実践の特徴に応じた評価指標づくりが必要である。
  評価の期間は短期的にみられる変化と中長期的にみられる変化がある。 評価実施時期については、一般的にある取組の前後に評価をくり返す「事前・事後計画」が用いられる。
  評価の方法としては従来より取り入れられてきた、感想や印象などといった定性的なものと、心理学や統計学を用いて数値で把握する定量的な方法の二通りが考えられる。
  その際、生徒の成長を中心に考え、よりよい実践に変えていくことを考えると、両方をバランス良く行うことが好ましいと考えられる。
 統計的にみて信頼性や妥当性が保証された尺度を作成するためには、専門家の協力が必要となる。
 誰が誰を評価するのかという点については、第三者機関は無。多面的・多次元的にとらえ、なるべく包括的な評価を目指したいが、まずはできるところから始め、無理のない評価が必要と感じる。
  評価の活用としては、まず個別的なケアに生かし、協力いただいている地域・社会連携に生かし、将来は校種間連携にも生かしたいものである
  本来教育評価とは事物の価値をある一定の価値基準に照らして判断するものであり、進路指導の意図する目標を達成したかということを示すものだ。自己のおかれた立場・役割に対する意識の発達や、自己肯定観(自己有用観)、個人の自己実現と社会への参加を目指す継続的活動を考慮した諸能力の育成という点で語られなければならない。生徒、教師、学校組織、外部の4項目の分野から自立、職業意識、生涯教育の視点を見つめるべきものである。本格的な心理学のアプローチが必要だろう。  
 
 ただし、あまり専門的・学問的すぎると、現場では活用されないと思う・・・
 
Ⅴ.  問題点と課題
(1)問題点・・・
  キャリア教育には何なのかよく分からないという不明解さがある生き方を考えさせるのであるから当然、幅広く奥深い、しかも成果が見えにくい、関心も低くリストラの対象にもなりやすい。いまだに「インターンシップ・職業教育=キャリア教育」という誤解を持っている方も多い。仕事を選んだり企業に就職する力をつける事だと理解されている方も多い。
   
 一方、総論は賛成だが、時間と人をさく余裕がないという現状もある。どのようにすすめていったら良いか分からない、キャリア教育には三つの壁がある。まず○○教育という言葉に対する拒否反応(言葉の壁)、忙しい、自分はかかわりたくないという拒否反応(人の壁)、学校の文化を理解できない外部の者とはかかわりたくないという拒否反応(学校の壁)である。
 学校で中堅と呼ばれる世代には自分たちの時代には受けた経験もなく指導の経験もない内容に対するとまどいもある。親たちの世代においても同様に理解しにくい。一方、進路のことで真剣に悩んだ就職氷河期や採用難を経験した若手世代の教員には必要性を感じてもらえている。
 実際携わると生徒と社会、教員と教員、学校と地域が繋がりだし、今の学校に必要なものが見えてくるのだが
 
(2)変遷と課題
①キャリア教育の今後の方向性について。
 1908年、米国のボストン大学で法学を教えていたパーソンズは育ちそうなものを選んでいく特定因子論的カウンセリング [マッチングアプローチ]を広める。この理論を柱に1900年代成人だけでなくこれから職業を見つけようという学生への支援「職業指導」が始まる、後に非指示的カウンセリングを唱えたロジャースなどにより一面的、固定的であるという批判を受けるのだがサイエンスによって社会問題を解決しようと踏み出した第一歩の意義は大きい。
 日本では戦後の民主化運動「綴り方教育・やまびこ学校」の実践が積まれていた頃1950年米国では戦後の冷戦の中で兵隊の適材適所への配置といった社会的ニーズもあり ホランドによるマッチングツールの開発が進み[発達的アプローチ]の時代を迎える。
 米国ではキャリアの統合者スーパーが、生涯における立場役割の変化、生きるためのライフキャリアと働くためのワークキャリアの概念を結びつける。1971年米連邦教育局長官、マーランドは「すべての教育は、キャリア教育であるべきである。」と唱え広い意味での「キャリア教育を始める」彼は職業教育をVocational Educationというのをやめ、以後キャリア教育Career Educationということを提案した。
 
 1980年代若者の就職難が世界的問題となり[プログレッシブアプローチ]市場原理に従う指導が先行、1990年代、国内の先駆者達が実践をスタート。1994年には第三の学科と呼ばれる総合学科高校が開校し進路ガイダンス「産業社会と人間」が原則履修科目として設置される。ニートフリーターという言葉が出始める。1998年(平成10年)「職業教育及び進路指導に関する基礎的研究」において生徒が身につけるべき能力が話し合われる。1999年(平成11年)中教審の接続答申ではじめて「キャリア教育」が登場する。私もこのころからずっと「キャリア教育」に関わってきた。
 2000年当初には人気グループSMAPの「世界に一つだけの花」が流行し「自分探し」が社会現象になっていく。21世紀に入って、キャリア教育には社会貢献・地域再生の視点が盛り込まれる[グリーンガイダンス・社会福祉的アプローチ]へと変化していくが総花的な傾向が否めない。
 2002年(平成14年)「児童生徒の職業観・勤労観を育む推進に関する調査研究」で四領域八能力が提唱され以降2004年(平成16年)キャリア教育本格スタートと共に金科玉条の様にここに示された能力と実践の結びつきが強調され固定化されてしまう。文科省以外からも「人間力」(内閣府)「社会人基礎力」(経済産業省)「学士力」(中教審)といった数々の「○○力」が提唱されていく。
 研究実践面では職業や役割に重きを置いてきた流れから、自尊感情、人間関係形成・自己認識・内的外的動機付け・学校間の接続等の研究が実践と統計学的裏付けによって次々と発表されていく。

 
 2011年の「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(中教審第二次審議経過報告)」で検討された「基礎的・汎用的能力」(国立教育政策研究所文部科学省)が示され、「自己理解・自己管理」「課題対応」「人間関係形成」「キャリアプランニング」の四つの能力と小学校から大学まで発達段階を考慮し自立・移行に着目した地域や学校の特性を生かす内容となり、新しい視点が組み込まれる。
 
 2010年の教職員免許法改正により生徒指導・教育相談・進路指導の中学6単位,高校4単位必修化となって、今後免許を取得するにはキャリア教育の知識と技術が必須となっている。
 2011大学もキャリア教育の必修化に伴い研究と教育の両方が推進されることとなった。
以前に増して自立・基礎学力・進路保証といった内容が現場では重要になっている。
 キャリア教育のメジャー化に伴って民間の研究者や企業も加わり、自己理解・職業理解の援助、キャリアプランニングの促進、自己効力・自己有用感・内発的自己決定支援、行動支援・学校間や産学接続といった研究や実践が進められている。学校も生徒保護者の価値観の多様化により学校全体による個別指導へと変化してった。
 
 ジェンダーの問題も真剣に考えなければならない課題となった。理想とは別で男女で進路が変わってくるのは事実だ、今年になって女子大のきめ細やかな指導が人気で進学希望者が増えている様だが、多くが共学である国内の学校でこのことについてどのようにガイダンスを進めていくべきなのか、早急に着手しなければならないだろう。
 若者や学生への支援が今ほど切実な時代は無い。しかし、残念なことに事業仕分けによる財政削減で世界に誇るべき職業データベースであったキャリアマトリックスや中立的な大学調べができたハートシステムといったインターネット支援ツールの傑作が閉鎖・削減されたため、地方の学校では進路情報格差に悩む状況になっている。
 
 今日、キャリア教育は百花繚乱で幅が広がりすぎている。本当に意味がある指導にするためには検証が必要な時期に来ている。指導が役に立っているかは追指導(卒業後の追跡指導)によって指導の真価が評価できる。
 この分野で先験的な研究として知られているのが青森県下北半島出身者の生涯を半世紀にわたって調査した「下北半島出身者の職業的社会化過程についての再追跡調査研究 (1981年)」である。組織的実践としては、大分県日田三隈高校が昨年全国初の「30歳のレポート」発表を行っている。広島県では幼小中高大と進路指導のカルテのようなものを作成しバトンタッチしていこうという動きもある。また河合塾が取り組み始めたトランジッション調査も興味深い。個人情報や資金面で制約がある卒業生の追跡調査であるが、今後はSNS(ソーシャルネットワークサービス)の活用にも可能性が見られるだろう。
 今日、経済環境の変化と多様化の時代の中で、日本のキャリア教育は大きな転換点を迎えている。継続のためのスリム化と個別対応のための評価・分析が必要な時期となっている。
 
 次回は海外の取り組みと企業との連携について記載します。