Geogami’s blog

日々の身の回りの出来事を中心に、 キャリア教育・地理教育 アクティブラーニングなどの教育方法 ICT等の話題を綴っています。

興味深い論文の概要と感想

 高卒就職者における高校時代の経験学習に関する探索的研究 

 授業や特別活動・部活動といった「イベント的活動」に依存しない、キャリア教育の在りようについて焦点をあてた論文。
 アブストラクトにあるように
 高校改革が進められている中、既存の学校教育でどのような能力が獲得されているか。高校での経験が社会に出た後どのように役立っているか、発達段階に応じて丁寧に読み解こうという視点がすばらしい。

 現場では、既存の教育内容、それを丁寧に遂行していくことがおおむね「善」である。一方で時代の変化に敏感な一握りの教師がそこを変えていこうと動き出す。口々に教育現場における「不易流行」が語られる。

 「経験」(「教科学習」、「文化祭や体育祭などの特別活動」、「部活動」、「アルバイト」の4つの経験)と「学習」の違いを確認し「基礎的・汎用的能力」の構造、高校でのこれらの経験を通じた学習を整理した上で能力の変化(=経験学習)に寄与するのかが述べられている。

 教科学習における「経験」については、それがどのように「学習」に影響しているのかという視点は今まさに進められている授業改革との関係性を推測する上で誰もが持つ疑問点である。
 「教科学習」、「文化祭や体育祭などの特別活動」、「部活動」、「アルバイト」の4つの経験はそれぞれ、異なった機能を持ち、個人の経験学習は異なっている。

 何かと話題になる「部活動」については「協調性やチームワーク力が養われたこと」「集団で物事を進める基本的なスキルがついたこと」集団やチームの中での貢献の仕方、集団での物事の進め方といった経験学習があり、「その活動を通じて得られた人脈や人間関係」への発展や「精神的なタフさ」の獲得もみられた。しかし、「同質集団」という限定された仲間内での貢献やチームとしての物事の進め方である点が指摘されており、この点を克服する機会が与えられる必要も感じる。

 「学校行事」は今回扱った4種の活動中、「何かをチームで達成することの喜びを知った」経験学習を促進しているという結果が出ている。「協調性やチームワーク力が養われた」のスコアも高く「文化祭での集団体験は人間関係能力に影響する」とした先行研究を支持する結果となっている。
 
 「部活動」と「学校行事」の比較について筆者は「目に見える結果」が求められる前者と「決められた期間内に成果を出すプロセス」といった「ゴールへの重み付け」の違いを挙げている。(ここに私見を加えさせてもらうと「学校行事」の推進のためには異質な集団も巻き込まなければならないという性格がある点も影響するのではないかと推測する。)

 授業改善が叫ばれる中、最も注目されるべき「教科学習」であるが、教科学習に積極的に取り組んだ場合は、取り組んでいない場合に比して「自分に自信がついた」という者が多くなっているという。(高校生の時期は発達段階的に最も自分に自信がない時期であるがその中で教科学習の効果が、自分に自信をつけることに大きく寄与しているという事実を認識し、ペーパーテストだけでなく様々な能力才能をもっと多面的に汲み取るという価値観の変化がもっとあっても良いと思った。)

 アルバイトの経験学習は、多岐に渡っていた。「礼儀や上下関係の基本が身についたこと」「対人コミュニケーション力が養われたこと」「その活動を通じて得られた人脈や人間関係」「突発的な出来事に対処できるようになった」ということが挙げられている。学校とは異なる、非日常場面での経験が、多様な他者との関係構築や、対処の経験学習を促進していると考えられている。(ということだが、アルバイトが禁止だったり、アルバイトをするチャンスがない高校生に対してどのような機会を与えることができるだろうか、たとえ、イベント的になってしまったとしても、意義はありそうだ。)

 教科からの経験学習が、所属する学校の進路傾向や高校での成績といった個人属性によって異なっているのではないかという点については教科経験の寄与が確認された、「自信」「継続性」「精神力」の三つが取り上げられている。

 部活動経験がある場合、いずれの進路傾向であっても、「自信」「継続性」の経験学習比率は高い。さらに、進学者が多い高校においてのみだが「精神力」にも結びついている。(だから進学校でいわゆる「文武両道」が掲げられている学校が多いのか)

 教科学習から「自信」「継続性」を学習している者は成績が上位の者のほうが多く、さらに、進学者が多い高校では、アルバイト経験のない者のほうが、教科を通じた「自信」、「継続性」、「精神力」の経験学習比率が高いことが示され、一方、就職者が多い高校では、アルバイト経験のある者のほうが、「継続性」の経験学習比率が高いことが示された。

 研究の結果が示している内容は、現場の教員が何となく感じている感覚に近いのではないだろうか。とすると、ここに科学的に示された結果をもとに再度日常営まれている学校内での活動を見直すことから初めて、無理なく継続的に新しい時代に必要な汎用的能力(コンピテンシー)を獲得する方策を考えていくべきだろう。

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お堀の横 玄関前の小道