Geogami’s blog

日々の身の回りの出来事を中心に、 キャリア教育・地理教育 アクティブラーニングなどの教育方法 ICT等の話題を綴っています。

キャリア教育の取り組みと「成果」に関する考察 (前編)

普通高校におけるインターンシップの成果について

 
 ※個人を特定できるような資料はありません、データの扱いには細心の注意をしています。
 

第一章 研究の背景

1. 本研究の問題意識
 今日若者を取り巻く就業に関する状況はますます厳しさが増している。※1
 このような中「キャリア教育」が新指導要領で明示された、しかし導入に関して現場ではその「成果」が疑問視されている。※2

 キャリア教育の成果とは何か。インターンシップ=キャリア教育ではないが行事への参加がどの様な変化をもたらすのか分析してみた。ここでの測定は断片に過ぎない。本来は発達段階を考慮した諸能力が評価の柱になるべきであろう。ここでは現場において実感しやすい、学習時間や満足度といった要素で、部活動の活動時間の長短とインターンシップへの参加不参加で四つに分類しどれだけの付加価値を生み出したかを推測した。※3
 文武両道※4を推進している現勤務校では、学力や学習時間と部活動の関係を無視して分析を進めることはできない。

 学習時間の変化は学びに対する意欲の変化、生活に対する満足度は自己肯定観と捉えることができる。いつ、どの様な生徒に働きかけをしたらよいのかも見えてきた。取り組みの検証、業務・組織の改革、学校経営にも参考になるのではないだろうか。     
 
(1)取り組みの拡大と新指導要領
  新学習指導要領に「キャリア教育」は明示された。 
  今後、生涯学習の重要性はますます高まり「学び続けてきたもの」がアイデンティティーとなる。キャリア教育は一過性のイベントではなく、一部教師が行うものでもなく、学校全体で取り組むものでありその成果についても客観的に検証されるべきである。
 
(2)分析に当たっては客観的な検証を心がけた、抽象的な感想文や実施後のアンケートの羅列にしない検証を試みた。普通高校においての導入には進路保証と学習への取り組み意欲の向上は職員の合意形成に不可欠なのでこの点についての検証をすすめた。
       
(3)勤務校におけるキャリアガイダンス
  現状と概要 平成18(2006)年より、自己理解と社会を知る活動、特に職業的視  野の拡大と理解を重視したガイダンスを始めている。
    入学時は接続を意識したガイダンス・職業適性検査・職業レクチャー・職業調べ・インターンシップ・経験を共有する行事・文理選択学部学科ガイダンス・面談・コーチング・志の育成等に取り組んでいる。
 
(4)インターンシップの取り組み
   普通科としては全国でも先駆けとして平成16年(2004)年よりインターンシップを導入している。
   入学直後に独自の進路ガイダンスのワークブック「進路ナビゲーション」を配布する。これには入学から高校三年生の志望校決定までの様々な進路行事やガイダンスあるいは適性検査や外部模試・生活の記録などを綴る部分と進路を決めるための様々な情報収集方法など生徒・保護者が読んだだけでも理解できるような工夫をしている。
 このワークを活用しながら進路発達度検査、職業レディネス(VRT第3版)、外部業者による適性検査や模試を受け、検査の結果についてのガイダンスやそれに応じた 夏休みの啓発体験のアドバイスを得る。これらの結果は個別面談や三者面談でも話題にしている。夏休み前には一年生全員参加の「職業レクチャー」という職業講話があり、その講座選びで適性検査の結果は役立つ。その後、夏休みにはインターンシップ・ジョブインタビューのいずれかを体験する。体験は夏休み明けの全体の発表会で共有化し文理選択や科目選択に役立てていく。インターンシップへの参加はイベントではなくガイダンスの流れの中に組み込んでいる。近年は生徒の関心も高く、2010年度のインターンシップ参加者は昨年度の1.5倍の115名であった。(その後海外研修か゛夏に実施されることとなり参加者は40~50名程減少した)
 

2.目的と意義

 (1)キャリア教育の必要性
   安定が約束されたコースは無くなり生涯教育社会に移行し、いわゆる出口指導ではなく、学ぶ意義のとらえ直しをして、学ぶ意欲を喚起し続ける必要が出てきた。学校外との繋がりが不可欠になっている。実際の卒業生からのアンケートでも高等学校段階での従来の進路指導の評価が極端に低くなっている。※5
 (2)普通高校、特に進学校におけるキャリア教育の必要性
     格差是正で教育の機会均等に視点が注がれているが、学習に対して高い能力を持つ者はさらに高める機会を与えられるべきで、進路に関してはガイダンス・体験・カウンセリングが必要である。特に、自分だけが成功すればよいという考えでなく、人と人が繋がり社会を形成しているということを理解できる人材を送り出す義務がある。  地域の核となる次の世代を育てる人材を輩出する学校だからこそ、職業や生き方・志について考えさせる必要がある。普通科の職員も、幅広い進路指導の在り方を身につけるべきで生徒をより多面的に見る視点が求められる。グローバル化が進展する中、就職・受験指導といったいわゆる「出口指導」だけでは世界に出て行く次世代には通用しないのではないか。
 
 

3.研究テーマと指標

  (1)進路指導6領域のうちの「啓発的体験(インターンシップ)」の検証を行った。
 (2)4測定項目
    ①学力・②学習時間・③学校に対する満足度・④進学先※6
 

4.調査方法

   (1)4測定項目の推移追跡
    ①学力・②学習時間・③学校に対する満足度・④研修先別進学先※6
   (2)分析パターンと視点
    ・どのような生徒がインターンシップに申し込んでいるか。
        ・インターンシップに参加した生徒はどう変わるか。
        ・成果はどの程度でいつまで続くのか。
    ・研究の為の研究でなく実践に繋がる研究とする。
    ①インターンシップ参加・不参加別※進路発達度
    ②インターンシップ参加・不参加別学力追跡(偏差値推移・センター試験得点率)
        ③インターンシップ参加・不参加別(学習時間変化)
        ④インターンシップ参加・不参加別満足度推移
        ⑤インターンシップ参加・不参加別進路先※6
        ⑥インターンシップ参加・不参加別、部活動参加状況別推移
 
  (3)調査参考資料 
        ①学習・生活実態調査(教務)・・・2005年~2010年度(平成17年~22年度)
        ②進路先一覧(進路)・・・2005年~2009年度(平成17年~21年度)
        ③インターンシップ参加者名簿及び感想
                 ・・・2004年~2010年度(平成16年~22年度)
        ④センター試験結果・・・2004年~2009年度(平成16年~21年度)
        ⑤卒業時アンケート(進路)・・・2005年~2009年度(平成17年~21年度)
        ⑥ベネッセ・駿台模試結果・・・2005年~2010年度(平成17年~22年度)
 

注釈

 
※1 厚生労働省所管の独立行政法人労働政策研究・研修機構によると、金融危機の景気低迷による雇用情勢の急激な悪化を受け、約1割が大学卒業までに就職先が見つからず、その後も職探しを続けているとみられる。
※2 文部科学省の示す「4領域8能力」・「基礎的汎用的能力」、経済産業省の「社会人基礎力」なども獲得するべき能力に対する一定の示唆は示してくれる。しかし、今の段階では、キャリア教育に対する評価(なぜ・誰が・誰を対象に・誰の為に・いつ・何を・どの様に)評価するべきかという指針は確立されていない。
※3 本来教育評価とは事物の価値をある一定の価値基準に照らして判断するものであり、進路指導の意図する目標を達成したかということを示すものだ。自己のおかれた立場・役割に対する意識の発達や、自己肯定観(自己有用観)、個人の自己実現と社会への参加を目指す継続的活動を考慮した諸能力の育成という点で語られなければならない。生徒、教師、学校組織、外部の4項目の分野から自立、職業意識、生涯教育の視点を見つめるべきものである。本格的な心理学のアプローチが必要だろう。
※4 部活動と学習の両立を意図する、本校は全員参加の新体力テストでも県内最優秀校であるなど実技科目にも力を入れている。
※5 「中学校・高等学校における進路指導に関する総合実態調査」(平成16)
※6  現場での実践の進化に繋げる為には大切だが、個人情報の関係で本報告書では割愛した。
(中編  第二章 研究内容へ  つづく)